すいませ

んでした。若かりし頃のわたくしの判断は間違っていました。


船戸与一
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)
蝦夷地別件〈中〉 (新潮文庫)
蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)
蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫)
蝦夷地別件〈中〉 (新潮文庫)
蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)
この本が上梓された10年とちょっと前、船戸与一の新作『蝦夷地別件』の舞台がその名の通り江戸時代の北海道だと知った僕は、船戸与一に失望した。現代史・第三世界を舞台にハードボイルドなドロップアウターを描き続けて来た船戸与一が、時代劇!? 日本!? と。
もちろんこの時の判断は間違っていた。が、若い僕は、読みもせずに船戸与一ブームを勝手に終焉させた。


船戸与一の魅力は、ハードボイルドな主人公だけに留まらない。その舞台を作る、政治的背景、民族主義の軋轢、戦争(たたか)いの冷酷さ。その環境に置いてこそ、悲哀と諦念を背負うドロップアウターは、昏い輝きを放つ。
江戸末期の蝦夷地は、まさにその環境にあった。そこを若い僕は理解しなかった。


日本という国家に組み込まれようとするアイヌ。彼らの民族主義民族意識が和人への反撥心として爆発寸前の北方を舞台に、アイヌの長老と若い世代、アイヌ松前藩江戸幕府松前藩ポーランドとロシア、日本と諸外国、政治と民族と闘争が複雑に絡む、いつもの熱量を持った船戸作品だった。


2800枚、全3冊の分量中、大きな事件が終わるのは3巻の真ん中くらい。
その後の終章は後日譚であり、復讐劇であり、溜飲が下がりつつも、男一人の存在が歴史を変えるには至らない、男の哀しさを体現する絶妙なエピローグになっている。
猛き箱舟 上 (集英社文庫)
初めて読んだ船戸与一の小説は『猛き箱舟』だった。その終章も、こんなだったなぁ。


★★★★★